大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和45年(く)20号 決定

少年 N・M(昭二九・一・一生)

右少年に対する暴行、暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件について、昭和四五年三月一二日大分家庭裁判所のなした中等少年院送致決定に対し、抗告申立人から抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

本件を大分家庭裁判所に差戻す。

理由

本件抗告の趣旨は、抗告申立書二通に記載のとおりであるからこれを引用するが、その要旨は原決定の処分は著しく不当である、というにある。

よつて本件少年保護事件記録および少年調査記録を調査するに、本件非行事実の存在は明白である。しかして右非行は少年が卒業前に教えをうけた中学教師に対してなされた暴行または脅迫であつて異常なものではあるが、格別深い動機に基づくものではなく、年少故の軽卒さと同輩に対し虚勢を示す意味合いからなされたもので、その異常さの故に少年の犯罪傾向が進んでいるものとはいえない。そして少年の資質(知能、性格)が劣つていること、その家庭は父親がすでに死亡し、母親の保護能力には多くを期待できないこと、少年は中学在校中にぐ犯非行により家庭裁判所の審判に付せられ不処分になつたことがあること、中学卒業後の職業歴も満足すべきものでなかつたことは原決定の説示するとおりであつて、少年の将来に問題のあることは否定し得ないが、最近少年の長兄○一が少年方の隣家に住むことになり、同人は少年の善導を誓つており、少年も同人の監督にはよく服従するものと思われるから、まだ保護処分を受けたことのない少年を直ちに少年院に送致するよりも、右○一の協力と保護司の監護に期待して今回は在宅保護により少年の矯正教育を計るのが相当であると認められる。右の意味において原決定の処分は不当であり、本件抗告は理由がある。

そこで少年法三三条二項により原決定を取消し、本件を大分家庭裁判所に差戻すこととする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 緒方誠哉 池田良兼)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例